映画「インターステラー」の感想(ネタバレ)

●監督について
インセプション」と同じクリストファー・ノーラン監督。
インセプションも驚異的なアイデアを元にした、奇抜でスリリングな映画だったが、インターステラーも映像処理がかなり良い。

例えばワームホールが球体のように表現されていたり、回転するブラックホールがドーナツのように輝いていたり。
あれらは科学的に正しい表現なのだそうだ。
ブラックホールの中でクーパーが入った5次元立方空間は、比喩的に表現された空間なので、とりあえずあのイメージは科学云々とは関係ない。
驚いたのだが、あの空間は CGではなく、セットを組んで撮影しているそうだ。
だから幻想的でありながら、いやに現実味があったわけ。
納得した。


ワームホールとそれを設置した「彼ら」
土星付近にワームホールを出現させた「彼ら」は、遠い未来に5次元存在に進化した人類自身だった!
そりゃそうだよね。
「彼ら」は時間も重力も自在に操る神のような存在に見えるが、実際にはかなり制約が多いようだ。
そもそも未来の存在だから、現在時間には存在していないのだし。

5次元存在の彼らは、過去の4次元存在である現人類に、直接にはコンタクトできないようだ。
過去の宇宙に対しては、限定された時空操作しかできない。してない。

しかし彼らは、知識としてはラザロ計画がどうなるか知っていたので、それに必要なお膳立てのみ提供すればよかったわけだ。
つまり土星付近にワームホールを設置し、さらにブラックホールの中に擬似的な4次元空間を設置。そこに招き入れたクーパーが、過去のマーフ(娘)に限定的(重力波の操作)に干渉できる手段を提供した。
それで十分、あるいはそれしかできなかったのだと考えられる。


ワームホールの設置場所
重力制御で時間や空間を超越する仕組みなので、大きな重力源のそばにしか設置できないようだ。
だから太陽系内では土星付近に設置され、接続先の星系では、ブラックホール・ガルガンチュアの近くに設置していた。
結果的に、これが時間のズレ(ウラシマ効果)を招いてしまったわけだが、5次元存在である「彼ら」には、それはまったく問題だと思わないのだろう。
(大きな重力源や超高速移動では、時間の進みが遅くなる現象)


●ラザロ計画の真実
表向きはプランAが発表されている。
つまり、移植民可能な惑星を発見している間に、重力制御技術を完成させ、巨大移民船(コロニー)を多数作って全人類を乗せ、植民可能惑星に移民を実行する。
これがプランA。
しかしそれが失敗した場合の保険として、プランBも同時に進めていた。

プランBは、人間の遺伝情報を含む胚を冷凍状態で移送し、植民惑星上で培養成長させて、地球人をそこに育てるというプラン。
それならその時点での科学力でも可能だとされていた。
しかしそれでは地球に残る人間は見捨てることになるので、プランBはあくまでも保険的なプランとされていた。

ところが実は「重力制御の方式を完成させることが不可能」なことが、かなり前にわかっていた。
なぜなら完成には「ブラックホールの中の情報が必要だった」から。
プランAは実行不可能だったので、実はプランBが本命だった。

しかしそれは地球にいる人類を見捨てるプランなので、批判を受けるし予算が得られない。
だから表向きは「プランAの推進」として、ラザロ計画が進められた。
そのことを知っているのは、重力制御方式に取り組んでいたブランド博士だけだった。
そして、寿命で死ぬ直前に、そのことをマーフに喋ってしまった。
(この部分にも疑問を感じる。本当は喋るつもりはなかったのだと思う。意識が朦朧としていて、ついしゃべってしまったのだろう)


●探査先の3つの惑星
48年前に土星付近にワームホールが突如出現した際、すぐにワームホールを透かして植民可能な星系の目星をつけた。
そしてそれらに向けて、3人(3機)の探査宇宙船を発進させた。


●3つの惑星の位置関係
探査船からの情報が十分なら、その惑星に直行すれば良い。
しかし地球で受信できる情報はわずかなので、現場に出向く必要がある。
シャトルで発信し、軌道上のエンデュランス本体にドッキングして、ワームホールを通過して長期間の宇宙航行をする必要がある。

ワームホールを通過して信号を受信したところ、1番目の惑星の情報が不完全。2番目と3番目が有望だった。
(2番目の情報は嘘だったのだが、それに気づくはずもない)
そこで1番目の状況を調査しつつ、2番目あるいは3番目の惑星に向かうことにした。

もともと3つの惑星をすべて回ってから地球に帰還できるだけの燃料はない。
ワームホールを通過すれば、目的の星をすぐに決められるはずだと考えていたのだから、その仕様は当然と言える。
地球に帰還することを考えると、着地できるのは2つの惑星だけだった。

そして偽情報に騙されて着陸した2番目の惑星で、乱心したマン博士によって重大な事故が発生してしまった。


●探査船のマン博士の乱心
探査船は片道切符であり、帰還に必要な機能を持っていなかった。
探査が終了したら冷凍睡眠に入り、後から来た植民者が回収してくれるのをひたすら待つ作戦なのだと思う。
植民が成功すれば、運が良ければ、彼らは救助される。しかし植民が不成功になれば、彼らも人類も共に死滅する。
覚悟の上で発進した彼らだったが、2番目の星に着陸したマン博士は覚悟がくじけてしまった。
すぐ「救助されたい」一心で、偽の情報を発信して冷凍睡眠に入った。

2番目の惑星は生存に適さないのに、適しているという嘘の情報を発信し、速やかに救助されるようにしてした。
そしてそれがバレないようにロボットを破壊し、情報にアクセスされたら爆発する仕掛けまで設置した。(この部分には違和感を感じたのだが)
これが結局、その直後の大事故に発展した。


●重大事故について
マン博士は、自分の罪悪感を払拭するために、その裏返しの使命感に病的に突き動かされ、強引にプランBの計画を強行しようとした。
地球に引き返そうとするクーパーたちを暴力的に阻止してシャトルを奪い、エンデュランス号をハイジャックして3番目の惑星に向かおうとした。

当然、クーパーたちはハイジャックを阻止する手立てを打った。シャトルのドッキングができないように、設定変更したのだ。

しかしマン博士は宇宙飛行士ではなかったので、正しく連結されていない状態のまま強制的にエアロックを開いたらどうなるか、想像できなかった。
爆発的な空気の噴出でエアロックが吹き飛び、シャトルが爆発。爆発に巻き込まれてエンデュランス本体も大破してしまった。

クーパーは、シャトルが破損することは推測していたようだが、エンデュランスまで巻き込まれるとは想像していなかったようだ。
エンデュランス本体は回転しながら、衛星軌道を離れて惑星に落下し始めた。


ブラックホールに急接近しなければならなかった理由
エンデュランス号本体の損傷や酸素不足、大気圏落下を食い止めるために大量に燃料消費した結果、地球に帰還するどころか、3番目の惑星に行くことすら難しくなった。

地球への帰還は諦め、近くにあるブラックホールに急接近し、周りを旋回して「スイングバイ」加速して、3番目の惑星に行くことにした。
(これでさらに数十年の時間が無駄になるが、もはや気にする状況ではなくなった)
しかしそれでも加速力が不足する。

そこでエンデュランスに搭載されている複数の着陸艇のうち2つをブラックホールに投棄することでペンローズ過程(なんか難しい量子物理学の現象)で加速することにした。
着陸艇のひとつにはロボット(AI)のタース。
もう一機はクーパーが操縦した。
エンデュランス号の破損が激しく、着陸船の遠隔操作はできなかったようだ。

クーパー自身は、地球に帰還できない=マーフ(娘)に再会できないこと。そして地球人を見捨てるしかない状況を踏まえて、すぐに自己犠牲の決心を決めたようだ。
実際のところ、他に選択肢はない。
3番目の惑星で人類の子孫を発生させるためには、アメリアが3番目の惑星に行くしかないのだから。


●アメリアの判断
1番目の惑星を出た後で、2番目の星に行くか3番目の星に行くか船内で討論になった時の話。
そのときアメリアは3番目の星に向かったエドマンド博士を愛しているから、3番目の星に行きたいと主張した。
それをクーパーは却下した。

実際にはアメリアの判断が正しかった。
と言うのも、2番目のマン博士は地球に家族がなく、利己的な理由で嘘の情報を発信したのだから。
しかし3番目の星のエドマンド博士は、利己的な理由で嘘の情報を発信するはずがなかった。
「情報が嘘である可能性がある」というリスクを考えたら、3番目の惑星を目指す方が良かった。

まぁ、それじゃ「彼ら」の期待も背いてタイムパラドックスがハッセしちゃうわけだけどね。


●評価
なにげにこの作品は傑作だと思う。
完璧とは言えないけど、ハードSF映画として間違いなく傑作の一つだと思う。

あくまでもハードSF作品なので、科学知識のない人や、SFの飛び抜けたイマジネーションに慣れてない人は、話についていけずチンプンカンプンになると思う。